前編から時間が空きましたが、後編「細菌感染症をきちんと診断し、適正な種類の抗生剤を選択し、適切な量を適切な回数分、処方する」を説明します。

抗生剤(抗菌剤)の適正使用 (前編)

細菌感染症をきちんと診断する

細菌が感染症をひきおこすと体の防御反応として「炎症」がおきます。すると、発赤熱感疼痛腫脹機能障害といった炎症の徴候があらわれます。医師は「炎症の徴候」をみて、細菌感染症を疑い、診断します。

のどの細菌感染症である「溶連菌感染症(溶連菌性咽頭炎)」は、のどの「発赤」、飲み込むときの「疼痛」などで診断されますし、「急性中耳炎」は「発熱(熱感)」と鼓膜と周辺の「発赤」、耳の「疼痛」などを診て診断されます。

適切な種類の抗生剤(抗菌剤)を選択する

細菌にもいろんな種類があり、抗生剤(抗菌剤)にもたくさんの種類があります。

細菌が感染する臓器や宿主の年齢などにより、病気をおこしやすい「細菌」があります。そして、その細菌ごとによく効く抗菌剤、効きにくい抗菌剤があります。

診断の次は、想定される「細菌」を考えながら、適切な「抗菌剤」を選択する(マッチングさせる)ことです。

例えば、咽頭炎は細菌Aが原因になりやすい、細菌Aには抗菌剤αがよく効くが抗菌剤βは効果に乏しい、とします。医師は「細菌性咽頭炎」と診断したら「細菌A」を考え「抗菌剤α」を処方するでしょう。

抗菌剤の選択に関しては、他にも、コストの問題(同じ効果なら安いほうがいいでしょう)、投与経路の問題(内服か注射かなど)などから、専門的には「より狭域抗菌剤がいい(いろんな種類の細菌に効くより、ターゲットを絞った抗菌剤がいい)」、「難治性細菌への抗菌剤(特別な抗菌剤)を温存するほうがいい」などありますが、ここでは割愛します。

適正な量を適正な回数分、処方する

内服の抗菌剤は、口から腸に入り吸収され血液の中に入り、一部肝臓を通り、全身の臓器へ届きます。

臓器ごとに、その抗菌剤が届きやすい臓器と届きにくい臓器があり、届きにくい臓器が目標の場合、内服量を増やす必要があります。

例えば、喉の急性細菌性咽頭炎(ほとんど溶連菌が原因)と急性細菌性中耳炎(主に肺炎球菌、インフルエンザ菌が原因)は、どちらも抗菌剤アモキシシリン(当院はワイドシリン)が第一選択薬です。効果の関係から、前者と診断したら処方量を「体重あたり30mg/日」、後者でしたら「体重あたり40-50mg/日」と変えています。

また、投与回数についてはどうでしょう。

医薬品の添付文書(効能書き)には、体内での薬物動態が記載されています。血中濃度の推移や尿への排泄などのデータです。

そして、添付文書に「用法・用量(量〇〇mgを1日○回投与)」の記載があります。もちろん、それは薬の性質(薬物動態)などをもとに規定されているものです。

「保育園でのませられないので、1日2回にしてほしい」よく言われることですが、ここで「1日3〜4回」と記載されている抗菌剤αを「1日2回」で処方するのは、効果の点で問題があるだろうと考えます。

細菌は人間の都合に合わせてくれません。細菌は「この子は保育園に行ってるから手加減してやろう」なんていうことはなく、「どうにかして生き延びよう」とするものです。抗菌剤は適切な量を適切な回数使うことも大事なことです。

まとめ

以上、「抗生剤(抗菌剤)の適正使用」について説明しました。

・不適切な処方をしない。

・細菌感染症をきちんと診断し、適正な種類の抗生剤を選択し、適切な量を適切な回数分、処方する。

「念のため、とりあえず、抗生剤処方しておきますね」
・・誰のため? 本当に子どものため?? いや、先生のためでしょうか?
・・どんな菌をターゲットに、どの抗菌剤を選択して、処方したのでしょうか?

先日、ある患者さんから聞きました。
「細菌にも、ウイルスにも効く抗生剤を出しておきますね」と(あるクリニックの)先生に言われました、と。
・・(処方はアジスロマイシンでしたが)そんな魔法のような抗生剤ってあるのでしょうか?

抗生剤に限らず、「薬を適正につかうこと」 当院では、常に肝に銘じて診療していきたいと考えています。

おまけ(参考までに…)

ミノマイシン(テトラサイクリン系抗菌剤):永久歯の変色(黄染)の副作用のため、8歳未満には原則禁忌(処方禁止)

クラビットジェニナックなど(ニューキノロン系抗菌剤)のほとんど:動物実験で幼若動物に関節異常が認められたことから、小児(医薬品の年齢区分では「15歳未満」)は禁忌。トスフロキサシンは小児適応あり。

ファロム(ペネム系抗菌剤):重症(院内)感染のときの第一選択薬(上述「難治性細菌への抗菌剤」「切り札、伝家の宝刀的な薬」)。当院では、まず使う場面がありません。 (伝家の宝刀は抜かない、のがよいと考えます)

・ピボキシル基を有する抗菌剤(セフカペンピボキシルセフジトレンピボキシル、セフトラムピボキシル、テビペネムピボキシルなど):低カルニチン血症(小児で低血糖、痙攣、脳症を起こす)の副作用あり。テビペネムピボキシル(オゼックス)は7日間までの処方制限あり

咽頭炎:溶連菌しかありません。第一選択薬はアモキシシリン(ペニシリン系抗菌剤)

中耳炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌が主な原因。第一選択薬はアモキシシリンまたはクラブラン酸カリウム・アモキシシリン

気管支炎:ほとんどがウイルス性(RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど)なので抗菌剤は不要

肺炎:年長児以上ではマイコプラズマが多い。乳児、幼児では肺炎クラミジアも原因になる。いずれも第一選択薬はマクロライド系抗菌剤(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)

胃腸炎:カンピロバクター、サルモネラ菌などが原因。前者はクラリスロマイシン、後者はホスホマイシンが効くが、「抗菌剤適正使用」の点から「軽症には抗菌剤不要」とされている。

膿痂疹、蜂窩織炎:多くは黄色ブドウ球菌が原因。黄色ブドウ球菌はペニシリン系耐性が多いため、セファレキシン(第1世代セフェム系抗菌剤)が第一選択薬。外用薬(塗り薬)のうち、ゲンタマイシンは耐性(効かない)と言われている

・小さいケガ:「念のため抗菌剤」「予防的に抗菌剤」は不要、不適切な処方。消毒薬も不要。

尿路感染症:当院ではセファレキシン(第1世代セフェム系抗菌剤)を第一選択にしている

・マクロライド系抗菌剤(クラリスジスロマックなど):効くのはマイコプラズマ、肺炎クラミジア、百日咳菌、カンピロバクター。一般的に「苦い」